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洗い場のカオリ


変わりやすい秋の空の中
小学校を訪ねます。

去年還暦を迎えた今井ユミ先生は、教師生活35年。

「うちとこの小学校は全部これよ。
 ほら、あそこも上のも全部ね。
 そういえば、私が教え始めたころからこれよね。
 もちょっとなんか太っててラグビーボールのような、そうそう。
 レモンだものね。レモン。

 でも昔はお皿にのってたわ。どんどん小さくなっていってね。
 それでいつだったかしら気づくと、
 ネットのみかんのやつのようなのに入ってぶらさがってたわ。
 あれだと最後までつかえていいのよね。」

自分の小学校時代もよみがえります。
水道の蛇口につるされて並んでいる、みかんのネットに入ったレモンの石けん。
何人かでどっちがよく泡立てれるか競って、
なかなか洗い場から教室に戻らないから、先生に怒られたっけ。

「改めてみると今のこのほっそりした形はネットにすっと入るし丁度いいかもね。」

「ちょっとちょっと、ちょっといらっしゃい。」

運動場で遊んでいた女の子たちをよんで先生はレモン石けんを手にのせます。

「うん。ほら。この子達の手にも丁度いいのね。」


先生の子供時代もレモン石けんだったんですか?

大きな声で笑って

「わたし?わたしの世代はベビーブームだから
 学校に石けん支給なんてしてもらえなかったのよ。
 水だけ。水で手洗い。それでね、不思議と大丈夫だったの。
 でも、どんどんいろんな病気や公害もでてきて、
 やっぱり清潔にしなきゃいけない時代がきたんじゃないかしら。」

 でもこうやって、ネットに入って洗い場でぶら下がってると、
 子供だってすっと洗っちゃうわよね。
 この光景が当たり前っていうか普通だもの。特別っていうんじゃないんじゃない?」

 今では家では石けんじゃなくて
 ほら、なんかアワがふわーっともう出てくるようなやつよね。
 でも、こうやって自分のつくった泡できちんと洗うってのもいいわよね。」

話している途中にも、ちょこちょこ子供が手を洗いにやってきます。
こっちを意識してか、しないでか、念入りに泡立てているようです。
先生は途中で
「あ、この子は洗い方がいいわ!」

言われた子どもも、なんだか自慢気。

洗い場から懐かしいレモンの香りが広がります。



還暦おめでとう。
まだ学校の洗い場にぶらさがりながら、
みんなの手をきれいにしてくれているんですね。



洗い場のカオリ     ぶら下がる石けん     泡立てる思い